後ろではそんな会話を聞いた数人の生徒たちが声を小さくして喋っている。
「わぁお、かなたが怒ってる…。どうするよ?」
「おれに振るな、永夜はどうしたんだ?」
「だれか、一ノ瀬の機嫌直せるやついないのかよ。」
「無理だろ?普段大人しいやつがキレると、何するか分かんないって言うし。」
こいつら、わざとやってんのか?会話の殆どが筒抜けだ。
「ホントめずらしいな。あそこまで不機嫌丸出しな一ノ瀬、始めて見た。」
「だな。」
ここまで、ごちゃごちゃ言われる筋合いはない。そもそも、そんな会話を無視できるほど、今の僕に余裕はない。
「悪いけど、ちょっとどいてもらっていい?」
そう言いながら僕はほうきをわざとらしく構える。
話し掛けられた彼らは、急な事に驚き硬直している。
そして、一呼吸待って再び喋りだす。
「あー、別にどかなくてもいいよ。つーか、今が何の時間か知ってんの?友達と仲良くお喋りする時間、とか思ってるわけ?」
「えっ?」
「一ノ瀬、いや、あの…。」
「で?どくのか?どかないのか?」
戸惑い始める彼らに、さらに追い討ちをかける。この頃にはクラス中は静まり返っていた。
「お前ら、煩いんだよ。ごちゃごちゃ言ってないで、手動かせ。それが出来ないならここから出てけ。つーか、俺の視界に入るな。今すぐ消えろ。」
たいして感情を込めずにしゃべる。考えないで喋っているから内容が怪しいが、言われた彼らは、そんなことを考える余裕がないようだ。
しかし、そんなに僕が怒りをあらわにしているのが珍しいのだろうか?
すっかり空気が変わってしまっている。
わかってる。ようは、八つ当たりだ。
こいつらには何の罪もない。
そう理解したとたん、全てのやる気を失った。
「悪い。俺、パス。」
そう言いながら、持っていたほうきを床に投げ出し、教室を去ろうと歩き出す。
カタン・・・とほうきが床に落ちる音が響く。
直前までペラペラと喋っていた連中は、何が起きたか分からないとでもいう様にぽかんとしている。
「あっ、いや、ちょっと待て!一ノ瀬!」
「わ、悪かったって、おい、どこ行くんだよ。」
「かなた!相棒が居ないからってそんな…」
そんな台詞を無視して廊下に出る。訳が分からないというように、クラスメイト達に叫ばれるが、もうどうでもいい。
ところが廊下に出たところで何も知らない人間に声をかけられた。
「あれ?一ノ瀬クン、どこ行くの?」
もう、この女子生徒の名前を思い出すのすらめんどくさいと感じるが、このまま無言で立ち去るのは、後始末が大変になる。ここらで適当なことを言ってカバーしておかなければならない。
「あ~。悪い。気分悪いから保健室行ってくる。」
もっともらしいウソをついて、返事を待たずにさっさと歩きだす。後ろからは大丈夫?と大きな声で叫ぶ女子の声が聞こえてきた。
さて、どうしたらいいのだろう?
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