さくらの便り 5
「人の血を奪いし生ける花…か」
「え?」
桜に見入っていたおれの横で
シンが呟く。
「奪う?」
「あれ」
おれの疑問の言葉にシンは桜に視線を固定したまま
言葉だけで何かを示す。
「何?」
生憎、それだけでは分からない。
「あらま」
クギは何かが見えているらしい。
「根本」
シンの言葉のままに視線を下へと移す。
「何、あれ?」
桜の根本には
小さな箱のようなものぽつんと置いてある。
「何って、なんだろうね」
クギのどこかやる気のない言葉。
しかしそんな言葉とは裏腹に彼は桜へと近づいて行く。
その後をシンが仕方なくといった足取りで続いていた。
「って、だから置いてくなって」
二人の後をおれは慌てて追いかける。
「迷子?」
「そんな可愛いもんか?」
クギの言葉にシンが返す。
二人が箱に近づき何とも不思議な言葉が交わされる。
「じゃあ、忘れもの?」
「明らかに意図的だろ」
二人から一歩離れた場所にいるおれは
それ以上近づけない。
「ここにどうしてもいたかった」
「自ら出てきたとでも?」
冗談なのだろうが、声色が真剣そのものだ。
何故この二人はこうも冷静でいられるのだ?
「それ、ホラーじゃ済まされないし」
「待て待て、お前らもっとこう…違うだろ!?」
クギの言葉に彼らの呑気っぷりにいい加減ついていけなくなり
言葉を挟むが、それは上手くはいかない。
「何、ソウ?」
「何で、そんな冷静なの!?二人とも!」
「逆に、ソウは何でそんなに慌ててるの?」
クギに問われ、逆に問い返すがシンに不思議そうに問われる。
「あ、慌ててるんじゃなくてビビってるんだ?」
ぐっ、と詰まったおれにシンが面白そうに笑いながらそんな事を言う。
「待て待て、待て!。それはクギの役目、シンの役目じゃないっしょ
シンはもっとこう興味なさげにだな・・・・」
無意味に慌てるおれの目の前に差し出せれる白い箱。
「どうぞ」
にっこりと微笑むシン。
勢いに任せて首を振るおれ。
それを、今にも転げて笑いだしそうなクギが見ている。
手渡してどうするつもりなんだよ。
PR