「そんな理由で、ハイレベルな力使って低レベルなケンカされたらこっちが迷惑だ。次からは場所考えろ」
「了解」
シュタがとりあえずの返事を返すとレイスが睨む。場所が違えばいいのかという言葉は場の空気を読んで引っ込めた。
「シュタルク?思ってもいないのに返事するなって言われてなかった?」
「そんなことも言われてたね」
「ついでに、アキシェ。思ってなくても返事ぐらいしろって言われてただろ」
「言われてたな」
レイスが言ったのはお互いに教師に注意されていた言葉だ。
シュタは従う気もないのに、気持ちのいい返事をし、自分の場合はやる気があろうがなかろうが、まったく返事をしていなかった
それを卒業するまでずっと言われ続けていたのを思い出す。
「くっくくく…」
「変わってないね、二人とも。ふははは」
「それは、お前もだろ。レイス」
シュタが笑い始めて、それがレイスに伝染する。すると、何故だか可笑しく思えてくる。
3人でしばらく笑いあって、何かに気づいたのかシュタが尋ねる。
「それで、何の用なのレイス?」
「そうだ、夕飯にはまだ早いだろう」
「あ、ああ。これを」
彼がポケットから取り出したのは小さなバッチが二つ。
「何だよ、これは」
「試験終了の証明。二人とも持ってないでしょ?」
「証明って、あの証書だけじゃないの?」
「そう。あれは、単なる書類だから。大して意味ないらしい。仮ってやつだよ」
「知らなかった」
「ついでに説明すると。卒業の証明は証書とバッチ。それと二人の場合成績優良者だから、その証も式でもらえるよ、きっと」
「なあ、特異優先証はもらえないのか?」
「あれ?アキシェ、それは持ってるんじゃないの?」
「仮だよ」
特異優先証は、自分の仕事柄大変役に立つ。
これだけは絶対もって帰らなければならない。簡単に行ってしまうと、これは一般人扱いを受けなくなるものだ。
入国審査をパスできるし、立ち入り禁止区域にも出入り可能、政府機関に対しても多少の融通が利くようになる。
今もっている物は、学園を出る際に理事がくれた仮のものだ。
仮と言ってもだいたいの効力は変わらない。ただし、証を提示すると同時に学園に報告を入れる必要があった。
「それで理事はキミの正確な居場所を知ってたんだな」
「理事に聞いたのか?」
てっきり、城の人間に調べさせたのかと思っていたのだが。
「いや、理事から連絡があったんだ。キミに連絡をとってほしいって」
「わざわざ?」
反応を示したのはレイスだ、理解できないと言わんばかりの声音に今度はシュタが不思議そうな顔をする。
「だってそうだろう?卒業式の連絡をしたいのなら、わざわざシュタルクを通す必要はない。自分ですりゃぁいいんだ。いくら、アキシェでもそれを無視したりしないだろ?」
確かにそうだ。仮のままではやはり色々不便な点があった。
では
「俺に用があるのはいったい誰だ?」
シュタは理事に言われて連絡を取った。そもそも、まだ何も詳しい話を聞いていない。
本当に、依頼があるかどうかも怪しいところだ。
「僕がキミに頼みたいことがあるのは事実だ」
俺の考えを読み取ったのかシュタが真剣な声で言う。
「でも、俺は何も聞いていない」
「それは…」
俯き言いよどむ彼の態度は謎が多い。
「なぜ、言わない?なぜ、言えないんだ」
シュタと視線を合わせようと彼を見るが、相手の視線は宙をさ迷っていてまるでこちらを見ようとしない。
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