とりあえず僕は、目があったことを確認してから頭を下げた。
二人に近づく気は微塵もない。
「友達かい?」
「うん。そう。去年言わなかったっけ?」
「さあな。そんな昔の話は記憶にないよ」
「50年以上も前の事は嬉々として語るのに?」
永夜の言葉に老人は大きな声で笑う。
二人の会話を聞いている限りでは、昨日今日に出会った中ではなさそうだ。
しかし、そんな事はありえるのだろうか?
その後もしばらく、爽快なテンポで会話をしていた二人だが、僕が会話に加わる気がないと気づいたらしい永夜が会話を切り上げる。
僕にちらりと視線を送ってから、声のトーンを下げて老人に何か言う。
「それじゃあ、爺さん。また来年。オレ、このままじゃ連れに愛想着かされそうだから行くわ」
「ああ、また来年か・・・」
「何、もう来る予定ない?」
「残念ながら、来る予定だ」
「じゃあ、いいじゃん」
「ああ、友達は大事にしろよ」
「分かってる。バイバイ!」
老人に手を振ってから、塔婆が並んでる場所に駆け足で向かい、すぐに何本か持って帰ってきた。
その間に老人は違う人間に捕まって再び話し込んでいる。
「いい人だろ?あの人」
「ああ」
「多分気づいてる」
「何に?」
「オレらの事」
ドキリと心臓が跳ね上がる。
「でも、気づいてない振りしてくれてた。だから、オレも何もしてない」
そんなもんなのだろうか?
「多分、今年が最後だ」
「何が?」
なんとなく予想はついたが、聞かずにはいられなかった。
「あの人に会えるの」
なんでもない事のようにすらりと彼は言う。
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