人間という生きものは
思っていたよりも
あっさりと
そして
あっけなく
死んでしまうものだ
優しい死神に出会ってから
半年
たった半年で
彼はいってしまった
悲しみに浸る間もなく
死を理解する間もなく
逝ってしまった
当たり前のように
2人で過ごしていた時間を
独りで過ごさなければいけないと
知ったとき
あの人がいない寂しさ
痛いほどに感じた
もう一度
もう一度だけでいい
会いたい
会って伝えたい事がある
私はまだ言えていない
あの言葉に
返事をしていない
あの人の影を追いかけて
私は思い出の場所を巡り歩く
最後に来たのはここだった
食事をした場所
写真を撮った場所
一緒に笑いあった場所
時には幼子のようにはしゃぎ
思い出したように取り繕う
恥ずかしいと断る私の言葉を
聞かずに手を取って先を行く
その後姿を見て
思い出した昔の背中
私はこの人についていくと決めたたんだ
そっと握られていた手を
握り返して
隣を歩く
何もかも鮮明に思い出せる
伝えることが出来なかった言葉が
繰り返し
繰り返し
頭の中で言葉となっては消える
声になることのなかった言葉
最後に共に過ごした時間
どうして
たった一言言えなかったのだろう
後悔ばかりが渦巻いて
私の涙を塞き止める
「綺麗ですね」
蘇る言葉
表情
仕草
声
温もり
すべてが記憶の中
目を閉じると
目の前にいるのに
手を伸ばすと消えてしまう
夜空に咲く花を眺めて
「来て良かった」
と呟いた私の言葉に
「そうですね」
あなたの言葉
空から視線をずらせば
好きな横顔
「これが最後かもしれません」
「何の冗談を」
「来れて良かったです」
「来年も来るんですよ」
「そうですね」
「おや、泣いてるですか?」
「感動してるんです」
「そうですね」
「貴女と共に過ごせて良かった。
出会えて良かった。好きですよ、ずっと」
涙が止まらなかった
声すら出なかった
もうすぐいなくなってしまうくせに
どうしてそんなことが言えるのか
「最後だから」
と笑えるあなたが
憎かった
怖かった
何よりも
愛しかった
あの時と
同じ場所で
空を見上げて
そっと呟く
「私もあなたに出会えて良かった
共に過ごせて良かった」
「これまでも、これからも
ずっと・・・・好きです」
あふれ出すのは
押し込めていた感情か
涙か
H20.08.02
ciel