「決めた・・・。」
「え?」
どれくらい経った頃だろうか。窓から入る日が傾きかけて、絨毯に僕らの影を描いていた。
立ち上がり、なんとなく視線を合わせないようにして、まだ涙声の第一声を放った。
「決めた、永夜。俺、ここに住む。」
「・・・・・・・。」
永夜は驚いたのか呆れたのか、声も出さない。
「何だよ?その反応は」
「いや、別に。意外・・・ってわけでも無いけど、なんかビックリした。こんなお化け屋敷に住むのか?お前が?」
一番の問題はそれだ。建物自体の傷みはそんなにない。しかし、庭やその他荒れ放題の室内はどうにかしなければ、とてもじゃないが住める状態ではない。
「何か、むかつく言い方だな、それ。とりあえず、庭だけでも業者に頼む。部屋は、使えそうな部屋探して・・・何も全部の部屋使うわけじゃないし。1個ずつ片付けていけばいいだろ」
「今のマンションどうするつもりだよ?」
「・・・欲しきゃやるよ。」
どうにも、永夜がお前には無理だと言っているような気がしてならない。だから、嫌味のつもりで軽い気持ちで言った。
「・・・・いらねぇ。」
けれど、その一言がなんとなく空気をおかしな方向に持っていく。
「・・・・じゃあ、片付けて賃貸に出す。結構いい条件だから、それなりの値段で貸せるだろ。」
「なんか、さすが社長の息子さんだな。考える事が違うよ。」
「・・・・お前はどうするんだ。永夜」
「ん~。どうしよっか。またどっか行こうかなぁ・・・。」
「どっかって?」
「国内でもいいし、アメリカ方面でもいいや。」
そういえば、彼が京都に行きたいと言っていたことを思い出す。
「アメリカって、パスポートは?」
「そんなのいくらでも、どうにでもなるよ。」
「なるのか?」
「うん。」
言葉が出ない。たった一言で事は解決するはずなのに、その言葉が出てこない。
どちらからというわけでもなくその場を動く。
目的はもちろん、屋敷内の散策だ。
「部屋だらけだな。」
「そうだな。」
歩きながらも、さきほどの後悔が付きまとう。
「こんな部屋数あって、どうするつもりだったんだろうな?」
「そうだな。」
「・・・民宿でもやるつもりだったのかな?」
「そうだな。」
「・・・・。明日も晴れだな。」
「そうだな。」
「・・・一つぐらい、オレが使っても問題ないよな?」
「そうだな・・・って。え?何言った?」
「お前が、何やら考え耽ってるのがいけないんだ。あ、あったぞ。ここが書庫だ」
何やらいらぬ事を考えている間に一つのことが決定したらしい。
この先ずっとこのままだという保障はないが、少しでも明るい未来が見えるならそれを信じてみてもいいと思う。
ここまで、導いてくれてくれた天崎永夜という人間を。
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