「あ~。オレね一人暮らししてるわけよ。」
「それは知ってる。」
あれ?どうして僕はそんなことを知っているんだ?聞いたのはいつのことだ?
そんな事を疑問に思ったが、彼は待ってくれない。さっさと話しを進めていく。
「だよな。それがさ、オレ、なんか最近ついてないのよ…。」
らしくないテンションの下がり方をする永夜を見て、僕は思い当たったことを口にする。
「もしかして、鍵無くしたとか?」
「かなた?」
「な、何?」
珍しく、怒気を含んだ声で名を呼ばれ、返事が若干引き気味になった。
「オレ、そこまで抜けてないぞ!失礼なやつだな。だいたい、鍵なんていつもかけてないし。だから、持ち歩くことはしないよ。つまり、落とすこともしません。」
なんて言うか、それ以前の問題だ。
自身満々に言っているが、はっきり言ってそんな風な態度で言って良い台詞ではない。
と言うか、こんなやつが一人暮らしを成立させられるなんて奇跡に違いない。
「だって、ほら盗まれるものなんて何もないし。」
「そうゆう問題じゃないだろう?」
「そうかなぁ?まあ、いいや。んで、オレね、今、路頭に迷ってんの。」
「はあ?」
「今まで住んでたアパートがさ、取り壊し決定してさ。もう、大変。」
「じゃあ、他の所に住めばいいだろう?」
当然のことを言ってみるが、彼はあまりいい顔をしない。
「金がない。なにより、めんどくさい。」
「面倒くさいって、お前な…。」
そんなんで良いのか?と疑問に思いつつ、やっぱりコイツは理解できないと改めて認識する。
「だってさ、オレ、戸籍しっかりしてないから。つーか、保証人なんてありえないし…ってもしかして、そうゆう説明からしなきゃならないの?うっわー。そうだよな。うん。で、今まで住んでたとこは、年寄り夫婦が大家やってて、小難しい取引しなくても住まわせてくれてたわけよ。でも、大家が二人とも亡くなって…その孫ってのが、なんかテラスハウスだかを建てるんだと。まあ、そんなこんながあって、今日は学校を休んだわけよ。」
ほとんど適当な説明なため理解できない。
結局、今日休んだ理由はなんだったんだ?
僕が尋ねる前に彼は喋りだす。
どうやら、もう僕からの質問は受け付けないらしい。
「ってことで、かなた、よく聞け。めんどいから一度しか説明しないぞ。」
そう言うと彼は長々と語り始める。
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