壁に掛けてある時計を見上げ、ふと疑問に思ったことを理事長に尋ねる。
「あの時計は正確か?」
「この部屋は正常だよ」
「アキ、行こう」
この建物の異常さから、時計まで狂ってしまっているのではないかと思い質問したのだが、彼の答えは大きく含みのあるものだった。
それを汲み取ろうと、言葉の意味を考えているところにシュタから声がかかった。
見ると、同じように席から立ち移動する彼は懐中時計を片手に持っている。
「理事、4時間後にまた来る。それまでの準備をよろしく」
「4時間もなにするんだ?シュタルク?」
すでにドアノブに手を掛けているシュタにレイスが尋ねるが彼は答えない。
「1時間で準備、3時間仮眠」
仕方なく彼らに近づきながら、大体の予定を言葉にした。
この時間設定は、前に自分が言ったことだ。たぶん彼はそれを覚えていたのだろう。
「なるほどね」
シュタを先頭に部屋から出ていく、わざと一案最後につき途中振り返って、口元だけに笑みを浮かべた。
「ああ、理事。言っておくが俺の今の依頼人はシュタだ。あんたではない。報告はするがそれが全てだとは限らない」
そして、理事長とスグリにゆっくりと頭を下げた。
途中、唖然とした顔の理事長が視界に入ったが俺は気にせず部屋を後にした。
「結局なんだと思う?」
部屋に着くなりシュタが開口一番そう言った。
「なに?」
「結局僕ら何も説明されてないよね?」
「そうだな」
「だったら、聞いてくれば良かったのに、アキシェが立ち上がるから」
「あのまま、話をしていても、無駄だ」
「え?」
「そうそう、良いように遊ばれるだけ」
「だから、こっちから切り上げて、次こそはこっちが指導権を持つ」
シュタと交互に喋り、現状をレイスに説明する。
「ふ~ん。おれは時々お前らと友達やってる自分が不思議に思えてくるよ」
「やることやって、さっさと休もう」
「なあ、準備って何がある?」
部屋に散らばったナイフを回収しながら、レイスの言葉を耳にする。
「何って、何?」
やりたいことがある自分にとってはシュタにもレイスにも構っている暇はない。
「ちょっとアキシェ、目が怖いよ」
「お前がくだらない事聞くからだろ。それと、アキでいいよ。レイス」
「わお!どうしたのアキ?」
おかしな声を上げたシュタを睨みつけると、彼は面白そうに笑っている。
「自分が必要だと思ったものを持っていけばいいだろ。俺は知らない」
「え、ちょっと言い逃げはないんじゃない?おれは結局、アキって呼んでいいの?」
「だから、好きにしろ」
「とはいっても、相手が分からないのに何をどう準備するのアキ?」
「外で仕事してると相手がまったく分からないことがほとんどだ。だから準備するんだよ」
それだけ言うと部屋備え付けの机に向かう。椅子に座って大きく息を吐き出して、ふと思い出す。先ほど壊さずに済んで本当に良かった。
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