手渡されたマッチ箱を見つめたまま数秒、瑞希は動かない。
「火、着けて」
燭台を差し出し、セツイは瑞希に指示をする。
「え?」
聞こえていなかったのか、瑞希は不思議そうな声を出した。
それを聞いたセツイは、表情が曇る。
「まさか。マッチ着けられませんとか言わないよね?」
「ない。それはないよ。ちゃんとできるって」
冗談なのか、本気なのか分からない問いに瑞希は真剣に答える。
「そう。なら良かった。はい」
冷たい笑顔を貼り付け、燭台を瑞希の目の高さへと持っていく。
「何で、私が?」
「あんたが着けなきゃ意味がないだろう?」
笑顔が消え無表情となったセツイは、抑揚の無い声音そう告げる。
燭台を片手に持つセツイはどこか変だ。
慌てて瑞希はマッチ箱をスライドさせ、中から一本取り出した。
シュッ
静かな部屋にマッチをする音が響く。
そして、薄暗い部屋にまた一つ灯りが増えた。
火の着いたマッチをセツイが持つ蝋燭へと近づける。
「あれ?」
無事に着いた1本目の炎の色は何故か白い。
「・・・次」
火の着いた蝋燭を見たまま動かない瑞希に、セツイが声をかける。
言われたまま着けた蝋燭の炎はやはり白かった。
瑞希は不思議に思いつつも、最後の蝋燭に火を着ける。
「ん?」
最後の炎は赤い。
役目を終えたマッチの火を消し、セツイの持つ燭台を改めて見直す。
白い炎が2つに、赤い炎が1つ。
目の前の炎が大きく動いたかと思うと、手が差し出せれる。
燭台は、棚の上へ。そして、瑞希の前にはセツイが手を差し出している。
その手の中は空だ。
それが、何を意味しているのか分からない瑞希は首をかしげる。
「マッチ」
単語だけ言われ、瑞希は一瞬動きが止まるが直ぐに思い出し、左手の中にあるマッチ箱をセツイの手の上に乗せた。
「ゴミも」
「え?いいの?」
「持って帰りたいの?」
「いや、全然」
マッチの燃えカスもセツイの手の上に落とす。
セツイは、手の中にあるものを確認すると、それを軽く握り、クルンと手首をひねる。
もう一度手首を返して手を開く。
「うそ!?え?あれ?」
再び開いた手の中には何も存在しなっかた。
セツイは冷たい笑みを浮かべるだけで、何も言おうとはしない。
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