さくらの便り 18
「ホント、忘れてた。そんなこと。おれ、そのあとショックで熱出して
寝込んじゃったんだ」
「その間に私たちは引っ越してしまったんだ」
ソウの言葉はどこか痛々しい、そんな言葉に続く形で話始める人間がいた。
「本当はきみに会わせてから行きたかったんだけれど」
中途半端に途切れる言葉。
誰も口を挟まずに次の言葉を待つ。
「それがきっかけではないだろうけど、体調を崩して…世間では色々と騒いでいたのもあって
逃げるように引っ越してしまったんだ」
「おれ、会いましたよ」
「え?」
予想もしていなかった言葉だからか俯いていた男がパッと顔をあげた。
その表情は信じられないというもの。
「おれ、引っ越す前のサクに会いましたよ。話をしたんです」
「いつの間に」
「えっと、寝たり起きたりしてたから良く分からないんですけど
おれの部屋に来たんです。それで夢を見るって話をしたんです」
ソウの言葉に思わす声を出しそうになる。
しかし、今は彼の話を聞くべきだ。
「桜の木の下でおれと一緒に、女の人と話をする夢を見るって。
おれ、それ聞いて驚きました。おれも同じ夢を見てたから」
「同じ?」
「うん。あの桜の木の下で髪の長い綺麗な女の人と話をするんだ。
はじめ彼女が泣いてて、それにサクが話しかけた。何か話してたら笑ってくれたけど。
だけど、その人悲しそうな顔して言うんだ。大好きだったのにねって。」
クギの言葉に軽く頷いて、思い出しながらだからなのか
どこか、途切れに途切れに言葉を発する。
「覚えてるのはそれだけなんだけど…。最後にお姉さんが言ったんだ。
絶対秘密ねって。だからサクと2人で内緒にしようって…
おれ、何でこんな大切なこと忘れてたんだろう」
「夢を見てたなんて、初めて聞いたよ。
あの子が起きた時に泣いていたのが何度かあったんだ。
理由を聞いても答えてくれなくて…」
咲夢はもっと内容のあるものを見ていたのかもしれない。
ソウはどこか抜けている部分があるから、きっと夢も抜け落ちてしまっているに違いない。
本人が聞いたら怒るであろう事を考えながら、言葉は全く違う話題を選んだ。
「ソウ、手紙出るか?」
「え?あ、うん」
鞄の中から出てきた手紙を受け取り、思っていたことを確認する。
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