読めなかった手紙 4
時間を忘れて話をしていると、パラパラと客がやってき始めた。
どうやら、おやつの時間らしい。
この時間は近所の主婦たちが、甘いお菓子とコーヒーを注文してゆく。
普段ならば、その中に学校帰りの女子高生も混ざっているのだが、今日は冬休みだ。
店内がざわつき始め数少ない、客席が満席になった。
しかし、年末ということもありピークはあっという間にすぎる。
短時間の休憩とお喋りで、みんな帰ってゆくのだ。
「もう夕飯の時間だね。あたし、今日約束あるんだった」
「へぇ~。めずらしいね。まあ、でも、そろそろ帰らなきゃな・・・」
「ササ君、ケーキはどうするの?」
「あ~、どっか適当に探すか」
「何だ、笹帆。ケーキ買うのか?」
「そうだ。雲さん、どっか美味いとこ知ってます?」
歌理さんが立ち上がると、みんな一斉に立ち上がり始める。
来る時はバラバラだが、何故か3人とも帰るときはいつも一緒なのだ。
「じゃあ、そろそろ閉店かな」
マスターがカウンターから出て、3人を送りながら、看板を下げるために外へ出る。
「じゃあ、マスター!また、明日」
「じゃねー。マスター」
「マスター。今日もありがとう」
3人が、それぞれ別れの言葉を言う。
「ああ、歌理さん、笹帆くん、雲さん。サヨナラ、気をつけて」
軽く、片手を上げてマスターが手を振る。
「イツ君!」
店内に残っていたオレに歌理さんが、手招きしてくる。
「何すか?歌理さん」
「まったく、イツ君、お客様はちゃんと送り出さなきゃダメでしょ?」
「ああ、スミマセン」
そんなこと、すっかり頭から抜け落ちていた。
のんびり、見送っている場合ではなかった。自分はここに働きに来ていたということを思い出す。
「もう、イツ君はどっか抜けてるんだよね。お姉さんは心配だよ」
「イツ、歌理に心配されたんじゃ終わりだぞ」
「ちょっと、ササ君?それはどういう意味だい?」
「ほら、いつまでも店の前でジャレてたらマスターの迷惑だろ?」
「じゃ、イツ君。これ」
雲さんに注意され、歌理さんが笹帆さんを投げ出し、オレに向き直る。
そして、何かを差し出された。
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