関係の無い話だが、彼は意外に女の子にモテる。顔は男の僕が見てもカッコイイ。スポーツもできるし、勉強もそれなりにできる。でも一番の理由は彼の性格にある。
「俺は、誕生日が嫌いなんだ。どうして?って聞かれると困るけど・・・。」
「うん。嫌いだってのは、さっきも聞いたよ。でも、ただ嫌いとか言われてもな~。」
やっと、僕の話が真剣なものだと気づいてくれたらしく、彼の表情は真剣なものへ変わる。
彼の良いところは、切り替えがしっかりとしているところだ。話の内容次第で態度がガラリと変わる。しかも、聞き上手でもあり話し上手でもある。その証拠に、愛想の足りない僕との会話もスムーズに進んでいる。ということで、何か相談するならば彼が適任なのだ。
自分の気持ちを説明するための言葉が見つからず、うつむいていると、彼の方が先にしゃべりだした。
「さっきも言ったけど、オレは好きだよ。誕生日。なんかさ、わくわくしない?」
「わくわく??」
心底不思議そうに尋ねる僕に、彼は楽しそうに語りだす。
「そう!わくわく。別にさ、誕生日が来たからって何かが大きく変わる訳じゃないじゃん?」
「・・・・・・。」
まるで僕の考えが見透かされたようで、驚いた。思わず彼の顔を凝視してしまった。
彼は、そんな僕に不思議そうな目を向ける。
目が合う。
そして彼は楽しそうに微笑んでいる。怖いぐらいに・・・。
「・・・・・・。」
目が合ったまま数秒。彼の表情は少し変化した。微笑から笑顔へと。例えるならば、何か面白い玩具を見つけた幼い子どものような無邪気な笑顔。つられて僕も笑顔を向ける。
「でさ、なんか、こう気分が変わるつーの?今日なんか朝起きて、似合いもしないのにさ、バカみたいに一六歳のオレ的抱負なんか考えちゃったりしてさ、でも、そんなんも、結局一日も持たずに忘れ去られるのがオチなんだけどね。」
ははは。と少し自嘲(じちょう)気味に笑いながら彼は話す。気のせいかどんどん早口になってゆく。これは、彼が照れているのを隠そうしている証拠だ。さっきまでのどこか余裕のある感じの笑顔は何だったんだ?
「それにさ、嫌ってもしょうがなくない?どうせ、毎年一回は絶対来るもんだし、逆にこない方がおかしいし。あっ、でも閏年(うるうどし)だと四年に一回か・・・。じゃなくて、ほら、好きとか嫌いとか言ってどうにかなるもんでもないし、『誕生日』って意識しすぎなんじゃない?それに、何かで見たんだけど、昔?平安時代の頃は、いつ生まれても誕生日は一月一日だったんだって。だから、気にしすぎなんだって。・・・まあ、お前らしいけどな。うん。」
彼は一人満足そうに頷きながら、「だろ?」っと確認するように僕に視線を向けてくる。照れ隠しから来る早口のせいで、どこか日本語もおかしい感じがするのは気のせいか・・・。
そして、僕が納得いかないというような顔していると、彼は再び語りだす。
「だってさ、オレたち、誰がどんな風に生きていたって、どうせ最終的にはじーちゃんになって死んじゃうんだぜ?まあ、じーちゃんまで行かないやつもいるけど、それはそれ、これはこれ。死ぬことには代わりはないじゃん?普通に生きていれば当たり前の話だろ?例外なんてあるわけないし。」
彼の言っている事は良く分かる。
しかし、僕の中で何かが釈然としない。
「お前は笑うかもしれないけど・・・。かもじゃなくて、笑うだろうな。俺、死にたくないんだ。死にたくないし、年も取りたくない。違うな…別に死にたくない訳じゃない。なんなら、今すぐに死んだって、それはそれで構わない。ああ、多分…大人に…なりたくないんだ・・・。怖いというのもあるけど、何か・・・。・・・別に社会に出たくないとか、働きたくないって訳じゃないけど・・・。けど・・・。」
「ピーターパンシンドロームってやつか。なるほど。」
「えっ?」
彼は、何か呟いたが、声が小さすぎて聞き取れない。いつもの彼ではない感じがしたが、まあただの気のせいだろう。
そして彼は、席から立ち上がり、胸の前で握りこぶし一つ作りながら、おかしな宣言を開始する。
「だあ!分かった!お前の誕生日までに、オレがお前の納得するような言葉考えといてやる!こうなったら、絶対納得させてやる。お前の考えをオレが改めさせてやる!」
そう言った彼は、真剣な表情の裏に何か、喜びのようなものが隠れていた。
「で?お前の誕生日っていつだっけ・・・?」
今思えば、何故あの時、彼の態度、言動がおかしい事に気づかなかったのだろう?
まあ、別に後悔はしていない。
むしろ、反対に話をしてみて良かったと思っているし、今の情況にも満足はしている。納得のいかない事が幾つかあるが・・・。
まあ、世の中こんなもんだろう。
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