元々仕事の内容が分からずに約束の場所に行ったのだ。どうなってもいいように、ある程度のものは持ってきていた。
まずは机の上に薬品を広げて、オリジナルの薬作りから始める。様々な場面・相手を想像して、あったら便利であろう物を調合してゆく。
「アキ。キミの想像で構わないから、今現在イメージしてる相手を教えてくれない?」
「憶測で簡単にものが言えるか、固定観念を持たれると困るからな」
シュタに向き直ることはせずに返事を返した。これで会話を諦めてくれればいいと思ったのだ。
「じゃあ、アキ。言わせてもらうけどさ、キミの経験というやつはそんな頼りにならないものなの?」
「何?」
「僕らに助言も出来ないような、そんなレベルなんでしょ?本当は」
「シュタルク?」
休めずに動かしていた手を止め、ため息を一つこぼす。
「…敵は相当強い」
「へぇ~」
「そして、何かしらあるんだと思われる」
そこまで言って、椅子の向きを変えシュタとレイスに向き直る。不安げな様子を見せるレイスと一度だけ視線を合わせ、後は視線を外して話始める。
「じゃなきゃ、学校側がとっくに動いて退治てるはずだ。しかし、手を出せない何らかの理由がある」
二人とも気のせいか真剣な表情で話を聞いていた。
「そして、相手は人間ではない可能性が非常に高い」
「つまり?」
「俺が言えるのはここまでだ。行けば嫌でも分かる」
そもそも、根本的なことが分かっていない。
それは、相手がどこにいるのか。
何かが大地の棟で起こっているのは確かだ。しかし、何かが隠れられるほど広くは無い。
「ああ、もう一つ。その人間ではない何か。その裏には結構やっかいな組織がいるかもしれない」
それだけ言って、元の作業に戻るべく体の向きを変えた。
人間ではない何か、森や山といった人の手が入っていない場所を歩いていれば嫌でも出会うモンスター、人間が人間を脅かす為に作り上げたホムンクルス。限られた人間だけが呼ぶことができる召喚獣。
どれも、自分にとっては日常的に出会う存在だ。依頼の大半はこういった存在の退治だからなのだが、召喚獣だけが少し違う。
「おれ、聞いちゃったんだけどさ。たぶん二人とも知ってる噂」
レイスが声を落としてそんなことを言うのが聞こえる。俺は耳だけをそちらに傾けた。
「噂?」
「この学園の下にあるっている、地底都市」
「ああ、大地の棟に入り口があるってやつ?」
大地の棟は一般生徒が立ち入り禁止の場所だった。なぜならば、招かれた客を考慮しての決まりだったが、生徒達にしてみれば、興味の対象となる。そして何故か当時はやっていた噂話と合体してしまった。
しかし、それもお偉いさんたちが、もしもの時に逃げるための道があるという結論に至り話は自然と消えていた。
「それが?」
「本当にあるんだよ。都市って言えるほど大きくないけど」
「レイス、それが?」
シュタが先ほどと同じ言葉で先を促す。
「何かがいるとしたらそこか。で、そこへの入り口があの部屋から一番遠い場所にあるって事か」
「そう!そのとおりだよ。アキ!…ってホントに呼んでいいのおれ?」
「かまわない。しかし、それだけ分かっていれば十分…」
「本当に?全部僕らの憶測じゃない?だいたい、何の基準があって、大地の棟には地下があって、そこには何か人間じゃないものがいて、しかもその裏には国を相手にする大きな組織がついてるって決まるのさ」
「…憶測で良いから言えと言ったのはどこのどいつだ」
「まさか、そこまで断言されるとは思わなかったんでね」
「信じられないと?」
「そう。だって、僕らだって今同じものを見て、同じ言葉を聞いてきた。なのにまったく違う感じ方をしてる」
「じゃあ聞くが、お前は何を感じたんだ?」
「空気がおかしいのは分かったよ。邪悪な気が溢れ返ってたから。そこから、何か人間じゃないものがいるってのは納得がいく。だけど」
彼の主張はなんとなく分かる。彼が反論してくる理由は、自分がそこまで気づけなかったのが納得できないのだろう。
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