「ありがとう」
涙こぼしながら
きみは言った
僕は
静かに待った
すぐに笑顔になると
知っていたから
「好きなんだ」
それまで
考えていた
全ての言葉が吹っ飛んで
結局出てきたのは
その一言だけだった
驚くきみの表情は
今も忘れない
始まりのあの日
僕は何一つ変わっていない
「どうして?」
不思議そうに
首かしげた君
いつもは
可愛いと思うそのしぐさ
その日だけは違った
いつの間にか
ケンカすら
しなくなってた
「終りにしよ」
気がつけば
すれ違ってた
唇引き結んで
しばらく黙りこむきみ
僕は
反応できなかった
「ありがとう」
次の一言に
僕は彼女の顔を見つめる
笑っていた
だけど
泣いていた
あの時と同じ言葉
だけど
違う表情
引きとめたい
思いはあるけれど
何の言葉も出てこない
「ばいばい」
黙り込む僕に
立った一言だけ残して
きみは去った
残されたのは
まだ湯気が立つ
飲みかけのコーヒーと
シンプルな指輪
あの日のきみに
面影はなく
あの日のままの
僕がそこにいた
H20,12,13
ciel