さくらの便り 23
「んじゃ改めまして、ソウくん」
クギがにっこりと無駄にさわやかな笑顔を貼り付け、わざとらしくおれに視線を合わせてくる。
場所は駅近くにあったレストラン。
少し高めのメニューに戸惑いながらも、別に他にお金を使う予定が無いことを思い出し
食べたい物を注文し終えた直後の事。
ちなみに、すぐ近くには低価格のファミレスもあったが
シンの「あれは食い物じゃない」という一言によって反論すらできない状態で却下。
なぜそこまで全否定するのかという理由すら聞く事もできなかった。
何か嫌な思い出でもあるのかもしれない。
そのほかにも百円回転寿司・牛丼屋などもあるがそれらは最初から選択肢には存在しなかった。
「なんでしょう?」
クギの視線から逃げつつも、若干引きつった笑みを乗せて応えた。
彼の隣に座るシンを見れば我関せずと店内を見回している。
「洗いざらい吐きなさい」
冗談のような口調で眼は真剣そのものだ。
「洗いざらいと言いますと?」
「手紙の内容」
「限度ってもんを知れよ」
クギの短い一言。
それが言い終わったと同時にシンのどこか冷たい声。
「何で?」
「誰だって知られたくないことの一つや二つあるだろ」
「へぇ、って事はシン。まだ隠してることあるんだ」
「心当たりがありすぎて」
「なっ…」
素直なシンの告白にクギは言葉に詰まる。
さすがシン。
「話せる事は話してやりな。じゃないと煩くてしょうがないぞ」
クギの反応を無視して、シンが何か思い出したのか眉間に皺を寄せながらもおれに向かって真剣な声で言う。
「分かった」
クギのしつこさは確かにこの1年で学んだつもりだ。
それも単なる好奇心とかいうよりも、心配とか相手を思いやった上でのものだとわかるので
下手に邪険にあしらうこともできない。
「だけど、何を話したらいいんだ?」
「ソウくーん。それじゃあ一生話が先に進まないよー」
おれの言葉にクギの呆れ返った声。
そうは言われても何をどこから話せばいいのか、クギは何を知りたいのかがまるでわからないので
話ようがない。
「夢の話」
ぽつりと呟くようなシンの声。
「え?」
上手く聞き取れなくて、おれが疑問符を飛ばすと、彼は仕方ないと言ったように話をする態勢に入る。
「お前が見てたっていう夢あっただろ?あれ、彼はもっと詳しい夢を見てたんじゃないか?」
「え?なんで知ってんの?」
丁寧に言い直してくれたシンの言葉には正直驚いた。
「知ってるわけじゃない。書いてあればいいと思ったから聞いたんだ」
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